CFOメッセージ

成長に不可欠な投資を
迅速に実行し、
新経営計画「FSG.30」の
目標達成へ。

取締役 執行役 財務担当 CFO

2023年度を振り返って

当初、2023年度は需要が回復傾向になると予測していたのですが、蓋を開けてみると世界的にインフレが進み、消費者の購買意欲が弱まったことで、私たちの業界も厳しい状況となりました。一方、材料費については欧米では低下傾向だったのですが、日本では上昇が継続。さらに欧米の金利上昇の影響も受けました。そうした中、どうお金を確保するのか、金利の支出を抑えるという点も含めて舵取りをしなければならず、財務としては本当に難しい、変化の多い環境でした。

営業利益率やROEが回復へ

営業利益率は6.8%と、2022年度の4.5%、2021年度の6.2%を上回りました。ROE(自己資本利益率)は2022年度が6.0%、2021年度が5.8%でしたが、2023年度は8.1%まで回復。これまでのピークである2019年度の9.1%をできるだけ早期に達成したいと考えています。また、営業キャッシュフローは過去最高となり、フリーキャッシュフローもマイナスからプラスに転じました。自己資本比率については、68.6%と健全な数字を維持しています。

これらの成果は、グローバルに本業での業績を回復したことが大きな要因ですが、2023年度は特にCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)、すなわち、仕入れ、棚卸し、売掛債権のすべての視点で、改善に向けた削減目標やそのための施策をそれぞれの地域で策定し、しっかり取り組んだことも大きく影響していると考えています。

目指す方向を明確化した新経営計画「FSG.30」

2023年度は投資家の皆様との対話の機会を拡充し、国内外のさまざまな投資家の皆様から、貴重なご意見を多数いただきました。お忙しい中、お時間をくださったことに、本当に感謝しています。ご要望として多かったのは、「フジシールグループにはしっかりした強みも事業基盤も成長に向けたアイデアもあるのに、それがうまく表現されていない。もっとうまく伝えてほしい」という声でした。そこで2024年度は、私たちがどこに向かおうとしているのか、そのためにはどんな課題があり何を強化していくのかをよりしっかりお伝えし、私たちが何を実現しようとしているのかをご理解いただけるよう努めていきます。

このたび策定した新経営計画「FSG.30」では、フジシールグループの進むべき方向性として2024年度~2030年度のキャピタル・アロケーションをお示ししました。2023年度末の手元現預金と7年間の営業キャッシュ・フローの合計を原資とし、その原資を最大限有効活用すべく、まずは「次世代に繋がる新たなビジネスモデルの創造」「製品マーケット・ターゲットエリアの拡大」「既存4事業の着実な強化」に向けて、1,000億円以上の成長投資等を行うこととしました。また、安定的・継続的な配当だけにとどまらず、機動的な自己株式取得を含めた株主還元を500億円以上、さらに今後の成長加速を前提とした運転資金の確保に500億円以上を割当として打ち出しました。

このようなキャピタル・アロケーションの開示は初めての試みでしたが、投資家の皆様にも関心を示していただき、活発な対話をさせていただいています。また、グループ従業員に対しても目標を示すことで、目指すべき方向性が明確化したのではないかと考えています。

見直しを図った配当方針と株主資本コスト

従来の財務方針は、財務基盤は盤石であるものの、成長投資および株主還元についてはやや保守的な面もありました。しかし、「FSG.30」に向けて各種KPIを達成するため財務面でもこれまでのやり方を一新し、積極的に成長投資および株主還元を行う方向性に変えていきます。

今後、より企業価値を高めていく必要があると認識しており、ちょうど方針の転換期であることから、2023年度下期に配当方針を見直し、①持続的な成長のための投資(技術開発・人財育成・設備投資、M&A)を行う ②連結配当性向の目標を原則として30%とするとともに、DOE(自己資本利益率)の水準、事業環境の変化等を総合的に勘案し、1株当たり配当額の安定的かつ継続的な増加を目指す ③有事に備えた安定的な財務基盤の構築及び機動的な自己株式の取得と処分を行う、としました。従来と比較すると、特に株主還元について、より積極的かつ明確な方針を打ち出しています。

また、株主資本コストについても見直しを図りました。従来は当社算定のCAPM(資本資産価格モデル)に忠実に従った方法で導き出し、およそ5%程度と見ていたのですが、そもそも投資家が期待するリターンは想定以上ではないか、また、CAPMでも指標を一つに絞らず複数勘案して検討した方がより適切ではないかという議論になり、証券会社、アナリスト、投資家の皆様のご意見も参考にした上で、今回、6~8%としました。

それにより、株主資本コストの算定の基礎となるWACC(加重平均資本コスト)も同時に1~3ポイント上がっています。このWACCの見直しに伴い、それらのハードルレートについても従来と比較して1~3ポイント上昇したことで、これまでは投資を認められていた案件であっても、改定後の投資ガイドラインでは承認されないケースも出てくることになります。つまりハードルレートが上がったことにより、「FSG.30」に向けて計画されている大型投資案件はより高い利益率が求められることになり、ROEを自動的に向上させる仕組みが整備されたともいえます。

ROEの目標達成に向けた3つの取り組み

「FSG.30」では、株主資本コストを十分に超える2桁%のROEの実現という高い目標を掲げています。直近が8.1%ですので、2030年までに達成できると考えていますが、それでもやはり、当社にとってはチャレンジングな目標であり、従来のやり方を踏襲していても達成できるものではありません。そこで、財務部門の具体的な取り組みとして、①将来利益の拡大 ②資本効率の向上 ③最適な資本構成の追求、の3つを掲げています。

①将来利益の拡大は、先ほどの「FSG.30」キャピタル・アロケーションのことであり、リソース割当の最適化を図り、積極的な投資により成長拡大することで将来利益額および利益率の両方を上げていく取り組みとなります。

②資本効率の向上は、主に事業ポートフォリオの見直しです。不採算事業・資産を圧縮することにより、結果として資本効率を高めます。もちろん、事業ポートフォリオの見直しはこれまでも行っていたものの、コロナ禍における原材料高騰に端を発した収益性の低下により、2022年に不採算事業がピークに達したため、もう一度原点に立ち返ってフレームワークを再構築しました。不採算事業は、ペナルティボックスに入れることで他の事業と切り離して別管理を行い、かつ、事業のトップは業績回復までのビジネスプランの策定を行います。策定されたビジネスプランの合理性については、取締役会にて、第一段階として事業継続の要否を判断します。その後、事業継続と判断されたとしても、ビジネスプランの期間中はペナルティボックスの中で、定期的に取締役会でモニタリングを行い、万一ビジネスプランと大きく乖離した場合は第二段階として事業継続の要否を再度判断する、という仕組みを構築しました。2023年度は、このフレームワークを用いたこと、さらに原材料高騰に伴う利益率の悪化を価格改定で補ったことが功を奏し、大幅に不採算事業が減少しました。2024年度は、まだ残っている不採算事業に対しても厳格にこのフレームワークを継続して適用することにより、さらなる不採算事業の低減を目指します。

①と②の取り組みでは、ROE計算式の分子の部分である当期純利益を向上させる点にフォーカスしていましたが、③最適な資本構成の追求は、ROEの分母である株主資本の圧縮にフォーカスした取り組みです。下記のグラフのように、自己資本比率は当期純利益の積み上がりにより毎期上昇していく一方、ネットDEレシオ(純有利子負債倍率)は低下していっています。これは、ROEの分母である株主資本が肥大化することを意味し、いくら収益性を向上したとしてもROEの向上は限定的になってしまいます。そこで、株主資本を圧縮する施策として、上述した配当方針の変更により、これまでよりもさらに配当を積極的に行うことで株主資本を抑えるとともに、「FSG.30」として将来を見据えて機動的な自己株式取得を行い、さらなる株主資本の圧縮を図っていくことで、分子・分母の両方にアプローチし、ROEの向上を加速させていきたいと考えます。

これら①~③の取り組みを財務部門主導で2030年まで厳格かつ着実に遂行することで、ROE2桁%の実現を確実なものとしていきます。

きめ細かい対話で理解深耕を

2023年度の前半は低迷していた株価も、第3四半期に業績を上方修正できたことで回復しました。ただ、まだまだ満足していただけるレベルではありません。さらなる業績の回復を実現し、成長戦略をしっかり説明して実行すると同時に安定的かつ継続的に配当を増加することで、株価のさらなる上昇を目指していきます。PBR(株価純資産倍率)は6月時点で1倍弱と、株価の回復に伴って少し戻っています。しかし、過去には2倍だったこともあり、株主の皆様の負託にお応えするという観点では、当然、「FSG.30」の目標値である1.5倍以上を実現していかなければなりません。そのためにも、業績回復と成長戦略=エクイティストーリーを明らかにしていくことが大切だと考えています。

私たちは年間約80回、業績や成長戦略について対話をするIR(インベスター・リレーションズ)面談を行っているのですが、2023年度はサステナビリティの課題等について対話をするSR(シェアホルダー・リレーションズ)面談が加わり、結果として100回を超える面談を実施しました。2024年度も積極的にIR/SR面談を行い、中長期的なサステナビリティへの取り組みをはじめ、コーポレート・ガバナンスや企業価値向上への取り組みに関して丁寧にご説明させていただきます。そうしたきめ細かい対話を通してフジシールグループへの理解を深めていただき、私たちもまた、株主・投資家の皆様のご要望をしっかり受け止めていきたいと考えています。