CFOメッセージ

「積極投資」と
「対話」を通して
企業価値の
さらなる向上へ。

取締役 執行役財務担当 CFO

変化に対応し選択と集中を進めた1年

材料費の高騰や地政学的なリスクをはじめ、コロナ後の景気の急回復、急激なインフレ、金利の上昇など、2022年度は財務的に見てもさまざまなファクターが大きく動きました。フジシールグループだけではなく世の中の多くの企業にとっても、これほど舵取りの難しい年はなかったのではないでしょうか。ただ、多方面に手を打たなければいけないという状況の中で、グループ全体としてこれまでにない新たな行動ができた1年でもありました。取引先の皆様とお付き合いの幅を広げたことはその一例です。新たな関係性を築いたことで供給をしっかり確保することができましたし、今後のより有効な購入購買活動にもつながると考えています。

私たちの製品は不況に強い、いわば底堅い製品なのですが、2022年度に関しては急激なインフレによってプライベートブランドへの移行などお客様の需要の変化が起こり、収益性に影響が出ました。そうした中、変化に対応できたこと、加えて選択と集中を進めることができたことは、2023年度以降の成長に結びつくはずです。ある時、岡﨑社長ほか経営陣と冗談半分で「変化が多すぎて変化に鈍感になるね」という話をしたのですが、これは実はとても重要な視点で、今の時代、生き残っていくためには変化や問題に対して敏感であり続けることが不可欠だと考えます。

結果が分かれた各事業の業績

非常に好調だったのは、ソフトパウチ事業です。これまでは詰め替え用が中心だったのですが、パウチそのものを容器として使う付け替え用の需要が高まりました。従来の容器に比べてプラスチックの使用量が少なく、資源循環型社会の実現に貢献できることが理由の一つです。また、小型から大型までさまざまなサイズに対応可能になったことで用途が広がり、売上を伸ばしました。今後はお客様の充填機投資をお手伝いするようなビジネスモデルを構築することで、収益面での課題を解決していきたいと考えています。

一方、苦労が続いたのは、主力であるシュリンクラベル事業とタックラベル事業です。材料費の高騰等で収益力が低下しました。かなり内部努力をし、またお客様のご理解のもと価格への転嫁もさせていただいたのですが、外資系の競合他社と比較するとスピードが遅かったことは否めません。ただ、現在が底として、今後については前向きに捉えています。大きいのは、やはり環境ソリューションです。アメリカで開発した、ラベルとPETボトルを一緒に回収しPETボトルとして再生する“RecShrinkTM”は多くのお客様にご支持いただき、採用が拡大しています。また、そうした取り組みによってEcoVadis社やCDPなどの外部評価も高まり、お客様から「サプライヤーを選びやすくなるので頑張ってくれてありがたい」というお声をいただいています。

機械事業については、受注は好調なのですが、売上はほぼ横ばいという結果になりました。厳しい環境下で材料などのリードタイムが延びたことやお客様の投資のタイミングの変化で機械の導入が後ろ倒しになったことがその要因です。状況が戻ってくれば確実に売上を継続していくことができると考えていますし、ラベルと機械を一緒に販売する「システム販売」という強みを生かしつつ、案件の発掘に努めているところです。

地域別では欧州とアセアンで次の一手を

各地域の業績については、欧州とアセアンが厳しい結果となりました。まず、欧州への対策としては、収益性の回復に向けた構造改革を行い、固定費の見直しなどを図りました。その上で今後さらに注力しなければならないのは、成長のため、競争に勝つために、市場に合ったソリューションを届ける、ということです。アメリカは3億3,000万人で1言語という、大ロットの市場です。それに対してヨーロッパは4億人以上と規模的には上回るのですが、主要国だけでも13カ国あり、言語も嗜好性も多様なため、ロット数が小さい。そうした難しい市場でいかに収益性を上げていくのか。機械や設備など、さまざまな角度から議論や取り組みを進めています。

アセアンについては、今はまだ売上をしっかり伸ばしていく段階だと考えています。ただ、他の地域に比べると人口もGDPも増加の一途をたどっており、成長性が高いことは間違いありません。今後は、売上と同時に収益性を確保できるような動きを目指していきたいと思います。

盤石な財務基盤、課題は「稼ぐ力」の強化

当社グループでは「資本政策基本方針」に掲げているように、持続的成長のための戦略投資と資本効率の向上を図ること、そして株主還元の一層の充実に努めることで、企業価値の向上を目指しています。まずは、技術開発(知的財産)、人財育成(人的資本)、設備、M&Aなどへの投資を積極的に実施。また、安定的な財務基盤の構築に向けてROE(自己資本利益率)を目標の10%に近づけ、株主還元については、直接的な利益還元とともに株価上昇による株式トータルリターンの向上を実現したいと考えています。

なお、財務状況としては、売上はほぼ順調で中期経営計画で示しているように安定して伸びていますが、収益に関しては、2018年度をピークにやや悪化しています。一方、借入を上回る資金を常に確保しているため、財務基盤は盤石と言えます。自己資本比率は2018年度が63%、2021年度が67%と緩やかに上昇しており、この傾向はしばらく変わらないと思います。1株当たりの純資産額も2018年度は約1,680円でしたが、現在は約2,200円と、こちらも上昇しています。それでは課題は何かというと、やはり収益力=「稼ぐ力」です。稼げる市場をどう見出していくのか。あるいは、既存の製品の中でどこまで選択と集中ができるのか。これまで築いてきた関係性であったり、一人ひとりの思いもあるので簡単なことではありませんが、しっかり進めていかなければなりません。そして、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)のさらなる強化。財務部門と営業部門が一体となって回収遅延債権の回収を促進する、そんな日々の地道な活動も、「稼ぐ力」につながります。

設備や人財に積極的に投資

積極投資に向けて準備をすることが財務の役割、というのが私の考え方で、その任務を遂行するためには、お金の出しがいがあるかどうかをしっかり見極める必要があります。

例えば、ソフトパウチについてはこれからますます需要が高まっていくと予想されるので、生産能力の向上に向けて、山形県で新工場建設のための土地を購入しました。また、成長性が高く社会的にも重要な医薬品ビジネスへの投資も推進しています。イタリアで医療向けの機械を製造しているのですが、近年需要が伸びていることから、現在の工場の隣地を購入しました。そこにどういう工場を建てるのか、どのくらいの生産能力にするのか、2023年中の着工を目指して具体的な検討を進めています。このように、構造改革を終えた欧州では、新たな市場に合わせて成長に向けた投資をどんどん行っていく1年になると思います。

持続的成長に向けて人財への投資も積極的に行っており、その一つがベルギーのビジネススクールとの提携です。マネジメント力を期待できるハイポテンシャル人財の輩出を目的としているのですが、1回投資をしただけで終わるのではなく、参加した一人ひとりが学んだことを現場で生かし、さらに自分を磨いていけるようなフォローアップの仕組みもつくっていきたいと考えています。

ステークホルダーの皆様との対話を重視
米州でのサステナビリティワークショップ(出前授業)

2022年度の株価の推移に関しては、残念ですが満足できる状況にはありませんでした。1年単位で見ると、1,700円前後から1,500円前後に下がっています。やはり成長に向けてしっかり投資をすることで魅力ある会社にしていかなければいけませんし、できると思っています。ぜひ、今後にご期待ください。

新たな取り組みとして力を入れているのは、投資家の皆様とのツーウェイ・コミュニケーションです。当方から成長戦略などをお話しさせていただいたり、逆に投資家の皆様から質問や叱咤激励をいただいたり。また、より幅広いステークホルダーを対象に、さまざまな活動を展開しています。昨年、125周年を機に始めたのは、グループ拠点のある地域での出前授業です。従業員が講師として学校に出向き授業を行うというもので、パッケージの役割や、パッケージを適切に処理すれば資源になることを子どもたちに説明。リサイクルの重要性を共有するとともに、当社グループの取り組みについての理解を深めてもらえる機会となりました。また、製造工程で発生するラベルの廃材や市場から回収したラベルをリサイクルして作ったエコバッグをプレゼントし、資源循環を実感していただきました。この取り組みは従業員のアイデアから生まれたもので、日本だけではなくアメリカ、オランダ、タイなどでも実施、大変好評でしたので、今後も継続していく予定です。

ご理解いただくための発信も積極的に

当社グループでは、現中期経営計画から連結配当性向の目安を20~25%としています。実際には安定的に1株当たり35円を継続し、結果として日本企業の配当性向の平均値と同等の30%前後となっているので、その点についてはご期待に添えているのではないかと思っています。繰り返しになりますが、今後、積極的な投資によって成長を促進し、株価をしっかり上げて配分するというトータルでのリターンを目指していきます。

ステークホルダーの皆様に対しては、利益配分はもちろん、私たちの事業や戦略についてご理解いただくこともとても重要だと考えています。成長し続ける市場であること、成長を実現するテクノロジーを開発できていることをしっかり発信してまいりますので、今後も密なコミュニケーションを通して見守っていただければと思います。