CEOメッセージ

増収増益となった2024年度
きっかけは新経営計画「FSG.30」

2024年度の業績は好調に推移し、特に営業利益は大幅増となりました。その大きな要因となったのが、2030年に売上3,500億円、営業利益率2桁%を目指す新経営計画「FSG.30」です。投資家の方々からは3カ年計画を見たい、というお声をよくいただくのですが、3カ年にするとどうしても今の延長線上で物事を捉えてしまい、思い切ったチャレンジができないということを過去の中期経営計画で学びました。今回、2030年という少し先にゴールを設定したことで、今はあくまで通過点、目標達成に向けてもっとあんなことができる、こんなことがしたい、という意識の変革が日本、米州、欧州、アセアンの各リージョンで起こった。それが成果に結び付いたと考えています。

マトリクス経営が根付いてきたことも、要因の一つです。それまでは現地の市場に精通している各リージョンの社長が意思決定をしていました。現在はそこに各事業の執行役が加わって頻繁に情報交換をし、一緒に課題解決を図っています。取締役・執行役会議でも双方の報告が同時に上がってくるため、多面的な見方を踏まえた上で、より的確でより早い経営判断ができるようになりました。

日本に関しては、2023年の組織変更で事業部制に移行したことが功を奏しています。開発から販売まで一貫して事業部が行う体制にしたことで、まず各プロセスでのスピードが上がりました。さらに、一人ひとりが責任感と主体性を持って動くようになり、利益への意識も高まりました。そういう意味で、事業部制というのは、組織のあり方、個人の働き方の一つの変化点であったと実感しています。

FSG.30:Fuji Seal Sustainable Growth 2030 Strategyの呼称

高い目標値は新事業創出への決意表明
次世代が生み出す新たな価値にも期待

フジシールグループは1897年に木工業メーカーとして創業しました。容器が木製の樽からガラス瓶、缶、プラスチックへと変化する中で1950年代に世界に先駆けて開発したのが、シュリンクラベルです。そこでパッケージングメーカーへと業態を転換し、流通の変化にもいち早く対応してきました。

今後も、現在の礎を築いたシュリンクラベル事業をしっかり守り、タックラベル事業、ソフトパウチ事業、機械事業の既存4事業で成長し続ければ2030年までに売上3,000億円は達成できるだろうと見通しています。しかし、「FSG.30」で掲げている目標値は3,500億円です。あえて500億円をプラスしたことが非常に重要で、それは、新たな柱となる事業をつくっていくという強い決意の表れにほかなりません。

ただ、3,500億円も通過点であって、その先は1兆円を目指すことになるかもしれませんし、あるいは、規模や技術だけではない、新たな価値が醸成されていくのかもしれません。次の世代がどのように考え、何をするのか、とても楽しみにしています。

魅力的な商品をつくり続けるお客様に
開発力×システム力で応える

フジシールグループには、「優良な顧客」「グローバルプレゼンス」「強い商品力」という3つの強みがあります。私が考える「優良な顧客」とは、成長することに真剣に取り組まれているお客様です。成長するためには売上や利益が必要です。消費者が求める商品をつくることで売上が上がり、その商品に魅力があれば適正な価格で買っていただくことができるので、利益が出る。その利益で新たな商品をつくり、フィードバックを生かしてさらに良い商品をつくる。そのように世の中の変化を察知し、適切かつスピーディーに動いて結果を出されるお客様とビジネスをすることで、私たちも一緒に成長することができます。なお、近年の市場の動きとして、小売/流通企業によるプライベートブランド製品の拡大があります。新たな顧客ニーズにどのように取り組んでいくのか、事業・リージョンの枠を超えて協議を重ねています。

「グローバルプレゼンス」に関しては、競合はどこですか、という質問をされることがあります。グローバルな立ち位置で、地産地消という形でお客様が求めるパッケージを提供している、という点で私たちと近いビジネスを展開されている会社が海外にあるのですが、大きく違うのは、私たちは基本的に自社で開発を行っているという点です。お客様が新しいラベルやパッケージを使いたいと言われた時に、それを可能にする装着機械を持っており、お客様の工場においても、生産性や利益をお約束するシステムを提供できる。そういった点を多くのお客様が認めてくださっているのではないかと思います。

優良な取引先に恵まれビジネス領域を拡大
検証能力に存在価値を見出す

そうした「グローバルプレゼンス」を語る上で欠かせないのが、優良な取引先の存在です。現在、国内のビジネスでは飲料分野の割合が多いのですが、海外では乳業、食品、ホームパーソナルケア、医薬へと領域が広がっています。それはひとえに、グローバル展開されている取引先が消費者のさまざまな要望を聞き、フジシールグループとならそれを実現できるのでは、と一緒に開発してくださっているからです。

「取引先に、本当に助けていただいている。そんな私たちの存在価値って一体何だろう?」という話を最近社内でよくしているのですが、一つは検証能力ではないかと考えています。日本・米州・欧州・アセアンの4つのリージョンでビジネスを展開する中で、一つのソリューションではなく、次はこれ、その次はこれを試してみましょうと、現地の顧客とサプライヤーと検証を繰り返す。30点だったものを100点に近づけていく。そんなやり抜く力、諦めない力を含めて、私たちの存在価値だと捉えています。

時代の変化に合わせた既存事業の強化
お客様の新たな選択肢となる商品を

成長戦略に掲げている「既存4事業の着実な強化」に関しては、生産効率の向上・ポートフォリオの見直し・再生可能シュリンクラベル(RecShrinkTM)の拡販・水性ラベルフラットの拡販に取り組んでいきます。

ラベルフラットというのは一般的に「巻き付けラベル」と言われるもので、登場したのは10年ほど前です。私たちは安全性や表示面積などを十分に検討し、プラスチックの使用量を大幅に削減できる極薄のシュリンクラベルを開発することでその流れを止めたのですが、再びラベルフラットを要請されるようになりました。これはもう、世の中の変化ですね。まだ生産効率などに課題があるのですが、新たな選択肢として、存在感を発揮できる商品に育てていきたいと考えています。

このように競争力や利益率に課題のある価値ある商品については一旦「ペナルティボックス」に入れて、やめるのか、存続させるのであればどのような手を打つのかを考える、というのが私たちのやり方です。「もう一巡しましたか?」と聞かれることがあるのですが、時代の変化とともに、あっという間に陳腐化するものもあれば、新たな“フジシールテクノロジー”として世界に誇れるものに生まれ変わる可能性もある。そういう意味で、この取り組みに終わりはありません。

各リージョンで従業員満足度調査を実施
一人ひとりの思いを真伨に受け止める

人的資本に関する施策として新たに取り入れたのが、従業員満足度調査です。グローバルで統一の内容にて日本でも実施する予定ですが、先行して調査を実施した米州、欧州、アセアンでは、従業員がどのように会社を見ているのか、基本的なデータが集まりはじめています。国民性というものがある中で、あの国と比べてこの国は、と横並びにして比較することに意味はありません。各責任者が従業員の思いを真摯に受け止め、何が必要かを話し合い、対策をしていくことが大切であり、その土台づくりはできたのではないかと考えています。

ベルギーのビジネススクールと共同開発したエグゼクティブ・リーダーシップ・プログラムは引き続き実施しています。参加したメンバーは視座が高く、成長を感じます。フジシールグループの価値観の共有に向けたバリューセミナーもやはり継続して実施しています。地道ですが、こうした活動の積み重ねが持続的な成長を可能にするのだと思います。

育てるのではなく“機会を与える”
社外の指摘に自分がすべきことを再確認

ガバナンスに関しては、できていると思っていてもできていないことがあり、それは必ずリスクという形で現れる、との認識から、法務とリスクマネジメントの双方を担う執行役を置き、倫理網領の多言語化やグループ全体での内部通報システム導入など、さまざまな施策を実施しています。グループコンプライアンスの本年度のテーマとして「Bad news first」としているように、悪いニュースこそ迅速に報告し対応するよう心掛けています。

ファミリーフェスティバルもまた、重要な取り組みの一つです。コンプライアンスカードに書かれた言葉も紹介し、ご家族にフジシールグループがどういった会社かをしっかり見ていただく。コロナ禍ではやむを得ず中断しましたが、昨年から再び開催しています。

取締役・執行役の責務としては、次の経営を担う後継者の育成計画を策定しなければなりません。ある時、どう育成していくかという議論をしていたら、社外取締役の一人が「育てるなんておこがましい。育てたら自分以上にはならない」とおっしゃって、本当にそのとおりだと実感しました。責任ある立場に立てば、人は自ずと成長する。私がすべきことは育てることではなく、その機会を与えることなのだと再認識しました。ガバナンスというのは、そんなふうに社外の方の声を聞くところから始まり、強化していくものなのだと思います。

持続可能な社会の実現に向けて
水平リサイクルの取り組みを推進

「人と環境にやさしい価値を届ける」というビジョンの中で、「持続可能な社会の実現に貢献する会社」と掲げているように、私たちは、次の世代のために、より良い地球環境を残していかなければなりません。

そこで力を入れているのが、水平リサイクルです。主な取り組みの一つは、使用済みラベルから印刷されたデザインを剥離し、新しいラベルとして再生する「ラベルtoラベル」。お客様の意識も高まり、取引先と共に実現に向けて着実に歩みを進めていますが、解決すべき課題もまだまだあります。例えば、家庭で出るPETボトルは回収・分別されますが、それ以外のものをどうするのか。ドイツやオランダでは商品の購入時に容器の保証金が上乗せされ、容器を返却すると返金されるデポジット制を導入していますが、日本で今、料金が上乗せされた商品を消費者が選ぶかというと、なかなか難しい。技術を確立した後の社会の仕組みづくりが、次に乗り越えなくてはいけない大きな壁だと感じています。

なお、使用済みのラベル付きPETボトルを新しいPETボトルに再生する「ラベルtoボトル」に関しては、米州のリサイクル協会(APR)の認定を受けたRecShrinkTMの採用が拡大しており、米州における水平リサイクルの加速に貢献しています。

「FSG.30」成功のカギは
一人ひとりが“自分事”として捉えること

先ごろ行った従業員満足度調査で「会社の方向性が分かりにくい」という意見を目にしました。そうならないようにと、これまで決算補足説明資料や統合報告書などのさまざまなツールを作成し、考え方も含めて情報をかなりオープンにしてきたので、少なからずショックを受けました。どうすれば発信した情報を受け取ってもらえるのか、その仕掛けを考えていく必要があります。また、受け取った内容を文字としてただ読むだけではなく、いかに“自分事”として捉えることができるか。それこそが、「FSG.30」を成功に導くカギだと考えています。

2030年まで、スピードの緩急はあると思いますが、目標達成に向けて引き続き邁進してまいります。さらなる成長にぜひご期待ください。