CEOメッセージ

信頼関係を築く
“創造のぶつかりあい”を、
皆様と共に。
取締役 代表執行役社長 CEO

「変化とともに変化する」
グループの意識改革に注力
まず足元の変化です。2023年度業績は、日本、米州、欧州、アセアンの各地域で売上高・営業利益ともに、好調に推移しました。米州については、日本よりもスピード感を持って価格改定できたこと、市場そのものが伸びていること、さらに不採算事業から撤退したことが結果につながりました。欧州については、価格改定や一昨年に行った構造改革、さらに購買機能を強化できたことも大きかったと社内では分析しています。
また、好調な要因の一つに、生産効率の向上があります。これまでは、従業員満足は大切にしていたものの、やはり顧客満足を最優先に考え、残業をしたり、複雑なルールにも対応してきました。しかし、事業自体の持続可能性を考えると、これからは自分たちの生産効率についてもお客様と議論を交わし、納得いただけるようにしていく。顧客中心、顧客起点と同時に従業員満足を両立させる。そんなふうに意識を変えていきました。
また、13年ぶりに従業員持株会を活用した信託型のインセンティブ・プラン(ESOP信託)を導入したのも、株主の目線を持つことで事業や経営に対する参画意識を高めてほしいという思いと、従業員の中長期的な資産形成を会社がサポートするというメッセージを打ち出したかったからです。今回は従業員持株会を活用したスキームを採用したため日本のみでの導入となりましたが、今後も引き続き、海外も含めたフジシールグループの全従業員の意識改革に努めていきたいと考えています。
もちろん従業員だけではありません。フジシールグループは、2004年にホールディング制に移行して以来、持株会社であるフジシールインターナショナルがグループ全体の経営戦略の策定・推進や監査などを行っています。上場企業であり、指名委員会等設置会社でもある当社は、常にコーポレート・ガバナンスの強化や経営の透明性向上に取り組んでおり、社外取締役や株主・投資家など外部の方々の声を積極的にお聞きし、その声を経営に反映するよう努めています。一方で、グループ会社は堅実性重視の事業運営になりがちで、そのギャップが大きな課題となっていました。
そこで、各種の会議体を通じて、フジシールグループ全体の経営戦略・施策の推進をより一層強化・徹底し、いわゆる「グループ・ガバナンス」の強化を図りました。
グループ会社にしてみれば、戸惑いもあったと思います。それでも、親会社からの方針に耳を傾け、グループ経営の一翼を担うという意識を持って非常に前向きに取り組んでくれました。
まだ途上ではあるものの、これらの施策が業績結果として表れてきています。中には、「業績がコロナ禍前に戻っていない」と指摘をする人もいるのですが、生活そのものがコロナ禍前と後ですっかり変わったので比較するのはおかしい、というのが私の考えです。フジシールグループの行動指針である「変化とともに変化する」を実践することができれば、何が起きてもそれにとらわれることなく前を向いて進んでいくことができますし、その体制は整いつつあります。
守りの姿勢が続く中、
まいていた種が芽吹き始めた3年間
前中期経営計画(2021-2023)については、コロナ禍という状況もあってチャレンジが少なく、守りの姿勢だったことが大きな反省です。チャレンジするためには、高い目標や実現したい夢が必要だということを、あらためて実感しました。
成果としては、サイバー攻撃をはじめさまざまなリスクが生じた際に、想定内に収める対策を打てるようになったこと。そして、次世代に繋がるビジネスモデルの創造を目指す中で、いくつかが形になってきたこと。出張に行くことができないなど行動が制限される一方で、そうした新たな活動に十分に時間を費やすことができました。
対外的なチャレンジはなかなか難しく、辛い局面もありましたが、社内でまいていた種がちゃんと芽吹き始めた。振り返れば、そんな3年間だったと思います。
3つの戦略で持続的成長を目指す
新経営計画「FSG.30」
前中期経営計画(2021-2023)の実践と反省を踏まえて策定したのが、2030年が計画のゴールであり、通過点でもある新経営計画「FSG.30※」です。次のステージを構想できる体制と時期になったとの認識から、これまでのように3カ年ではなく、中長期のありたい姿を描き、毎年実践すべきことを明確にしていく経営を行っていきます。
成長戦略の策定に当たっては、何をもって私たちの強みや事業基盤とするのか、今一度、整理をしました。強みは「優良な顧客」「グローバルプレゼンス」「強い商品力」。事業基盤は「財務」「人的資本」「環境との共存」「ガバナンス」「知財戦略」。それらをさらに洗練し、「既存4事業の着実な強化」「製品マーケット・ターゲットエリアの拡大」「次世代に繋がる新たなビジネスモデルの創造」という3つの戦略で、持続的な成長を目指していきます。
※FSG.30:Fuji Seal Sustainable Growth 2030 Strategy

安心・安全面、管理面など
パッケージの役割を再定義
強みの一つとして「強い商品力」を掲げていますが、その根底には、環境問題が取り沙汰される中で、パッケージが果たす役割や価値を見直したいという思いがあります。
まずは、安心・安全面。改ざん防止や衝撃・ほこりからの保護をはじめ、賞味期限や保存方法などの情報が表示されていることで、消費者の方々は安心して触れること、使うことができます。次に、管理面。それがどのような製品なのかを表現するラベルがあれば容器を統一して使用することができるので、容器の在庫削減につながりますし、デザインリニューアルもラベルを変更するだけで良いので簡単です。また、容器をソフトパウチにすることでサイズがコンパクトになり、輸送効率がアップします。さらに、機能面では、遮光や断熱機能をラベルに付加することによって消費期限が延びるなど、フードロス削減にも貢献しています。
製品やブランドの差別化や魅力訴求を図る加飾面だけでなく、こうした安心・安全、管理、機能という側面も私たちの商品の強みであり、また、価値につながるものです。今後、サーキュラーエコノミーの取り組みも含めてパッケージの役割をより多くの方々に発信していくことは、リーディングカンパニーとしての責務だと考えています。
「ワクワクなしに成長なし」
大切なのはバッターボックスに立つこと

5つの事業基盤の中でも、成長と成功のカギを握るのは、「人的資本」です。人的資本のビジョンとして「ワクワクを創る会社~ワクワクなしに成長なし~」を掲げているように、国内外の従業員に、心が躍るようなチャレンジの機会をより多く提供していきたいと思っています。当然、組織の中にはいろんな制約がありますし、一つの仕事のスペシャリストになるという道もあるのですが、メインの仕事以外にも、プロジェクトベースのものや期間限定のものなど、並行してさまざまな仕事に取り組んでほしい。私は、人が育つためには、バッターボックスに立たせるしかない、と思っています。コーチが丁寧に教えるだけでは足りません。本人がバッターボックスに立つことで、三振したり、ヒットを打ったり、時にはデッドボールを受けたり…。そんな経験の一つひとつが学びであり、成長につながります。
教育に関しては、スキルマトリクスなどを通して何を身につけるべきかが分かるようにしており、各自のスキルアップをサポートしています。また、ベルギーのビジネススクールと提携し、当社グループ仕様のプログラムによる研修を行っています。さまざまな地域、さまざまな職種のメンバーがそこで知り合い、ワイワイ議論をしながら、経営課題に対する解決策の提案などを作り上げています。次世代経営者候補の輩出を目的としたもので、今後も力を入れていきたい取り組みの一つです。
戦略がより明確になった知財
環境は2050年ネットゼロを見据えて
この数年で飛躍的な変化を遂げたのが、「知財戦略」です。それまでばらばらだった特許やアイデアバンクを整理し系統立てたことで判断の精度が上がるとともに、次の世代により引き継ぎやすいものとなりました。また、IPランドスケープ※の実践によって、私たちの知財が市場においてどんなレベル感なのか、どの部分が足りないのかを客観的に捉えることができ、立ち位置がより明確になりました。
「環境との共存」に関しては、これまでと同様、「価値を創造する:環境配慮型製品の供給」と「価値をまもる:製造での環境負荷低減」の両面で取り組みを推進していきますが、今回、2050年ネットゼロを見据えて、温室効果ガス排出量削減の新たな目標を加えました。現在、どんな形でどこまで進んでいるのか、執行役会議や取締役会で進捗を報告するとともに、環境月報という形でも情報を広く共有しています。
※IPランドスケープ:IP(Intellectual Property:知的財産)情報を分析し、その結果を経営戦略の策定や企業の意思決定に活用すること
これまでのノウハウと実績を生かして
医薬品ビジネスを拡大
成長戦略である「製品マーケット・ターゲットエリアの拡大」に関して、今後より注力していきたいのが、成長性が高く社会的にも重要な医薬品ビジネスです。医薬品の包装加工については実は30年ほど前に許認可を取得しており、ノウハウも実績もあるのですが、次の一歩を踏み出そうということで、バイオ分野への参入に向けて2023年6月に取手ファーマ株式会社の全株式を取得しました。また、ラインエンジニアリングやロータリーラベラーなど医薬向け機械事業についても拡大戦略を進めており、イタリアの工場で新棟を増設するなど、設備投資も積極的に行っています。
世界的にジェネリック医薬品の使用が増える中、自社では薬のR&Dに特化し、パッケージに関しては外部に委託する、というのが医薬品業界のお客様の動向となっており、そうした市場の変化は私たちにとって大きなチャンスだと捉えています。
新たな容器の開発や革新的技術で
次の世代に繋がるビジネスを
私たちのお客様であるマーケットリーダー各社にとって、今や流通業界は競合先の一つです。流通企業がプライベートブランドを展開し、自社商品を安価で販売することで、消費者の選択肢が増え、ナショナルブランド商品との競争が激化しています。そのため、マーケットリーダーはより価値のあるものを提供し、自社のブランド価値を確立する必要がでてきています。それは私たちも同様で、成長戦略でも「次世代に繋がる新たなビジネスモデルの創造」をうたっており、さまざまな取り組みに着手しています。例えば、容器。シュリンクラベルやタックラベルは硬い容器に使うラベルです。そのラベルを容器にする、という発想から生まれたのが軟包装袋のソフトパウチで、従来の硬い容器よりもプラスチック使用量を大幅に削減することができます。口栓付きパウチや詰め替え、付け替えといった商品がありますが、現在、新たな商品展開を構想中です。
すでに形になっている新規事業としては、模倣品や不正転売の防止を目的とした「Deep IS®(ディープ・アイズ®)」があります。人間には気づくことのできない印刷のわずかなゆらぎを区別する革新的な個体識別技術で、スイスのスタートアップ企業と共同開発しました。世界の偽造防止パッケージ市場は2030年には50兆円を超える規模になると予想されており、次の成長ドライバーとして期待しています。
リサイクル率を高める仕組みづくりで
サステナブルな社会の実現に貢献
私たちはパッケージメーカーですので、プラスチックでも紙でも使える素材は使う、というスタンスです。ではなぜ圧倒的にプラスチックが多いのかというと、衛生面や安全面などお客様の製品に適している、というのがその理由です。プラスチックの問題が、ごみとして海などに流れ込み環境汚染を引き起こすことであるなら、いかにリサイクル率を高めるかが最も重要であると考え、私たちは、ラベルやパッケージが資源として生まれ変わるよう、さまざまな切り口で、サーキュラーエコノミーへの取り組みを推進しています。
使用済みのシュリンクラベルから印刷されたデザインを剥離し、新しいラベルとインキに再生する「ラベル to ラベル」。消費者の皆様にとって有用な情報をお届けするラベルが再びラベルとして生まれ変わることで、資源の有効活用や温室効果ガス削減に貢献します。また、ラベルとPETボトルを一緒に回収しPETボトルとして再生する「ラベル to ボトル」を実現したRecShrinkTMは、米州のリサイクル協会に認定され、すでに多くのお客様に採用いただいています。
機能や価値が変化することで広がる
パッケージの可能性

私たちはこの統合報告書も含めて情報をかなりオープンにしているのですが、特に従業員には、会社の方向性をもっと明確に伝える必要がある、と認識しています。創業から続く私たちのさまざまな価値行動について分かりやすく記した「Fuji Seal Way」を2021年に刷新し、2023年にはその補足資料として、これまでの大きな出来事をまとめた「忘れずに語り継ぐべき事例と教訓」も作成しましたが、ここまですれば当然分かってくれているだろうと決めつけず、今後もインナーブランディングやアウターブランディングに注力していきます。
パッケージの機能や価値はこの先もどんどん変化していく、だからこそ大きな可能性がある、と私たちは考えています。そういう意味でこれからも、経営理念「―包んで〈価値〉をー 日々新たなこころで〈創造〉します。」や、スローガン「創造を〈夢〉と呼ぶ。創造へのチャレンジを〈勇気〉と呼ぶ。創造のぶつかりあいを〈信頼〉と呼ぶ。」を大切にしていきます。そして従業員はもちろん、お客様、パートナーの皆様、株主・投資家の皆様が共に実践してくださるよう、ぜひお願いしたいと思います。